轍鮒之急

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【4】エロ漫画家と純情編集のイケない打ち合わせ【完結マンガ感想】

こんにちは。キセキです。

 

完結マンガ感想、第四回目は「エロ漫画家と純情編集のイケない打ち合わせ」です。

 

1. 作品概要

「エロ漫画家と純情編集のイケない打ち合わせ」(全2巻)

作者: 村崎ユカリ 出版社: KADOKAWA ジャンル: 恋愛, コメディ

あらすじ

ある日事故に遭い、「他人の心の声」が聞こえる体質になってしまった真心。最初はそんな体質を楽しんでいたが、段々と疲れてしまい、人と会わなくてもいい仕事=漫画家(エロあり)に転身する。

もう恋とも無縁だな……。そんな風に想っていた真心だったが、突然の担当替えにより現われた、無表情・コワモテ編集者・与稀から聞こえてきたのは……!?

まっすぐな想いにキュン死!?心読めちゃうエロ漫画家と、ウブすぎる編集のドタバタラブコメディ♡

単行本1巻裏表紙より

 

残念ながら知っている人は少ないであろう作品。全2巻のマンガで有名な作品などほとんどないのかもしれないけど。

作者の村崎ユカリ先生の他の作品には「悪役令嬢は異世界転生しても乙女ゲームをつくりたい!」(コミカライズ)があります。私は悪役令嬢ものも異世界転生ものも読まないので多分読みません。

タイトルでだいぶ出落ちしている気がしますが、感想に入ります。

 

2. 舞台設定

普通の現代日本におけるラブコメ漫画誌を発行する出版社もしっかりあります。

設定としては主人公の佐鳥真心(以下、さとり)が"心の声が聞こえる"能力をもつ点が少し特殊ですが、マンガでは使われがちなやつなので受け入れやすい。最近だと「SPY×FAMILY」とか。ただこの能力は"相手を選択的に聞ける"のか、"一定範囲内の人間の声が全て聞こえる"のかで、大きく性能に差があるのを感じます。この作品は後者で、必ずしも良い能力であるとは言えないことも示されます。

 

3. ストーリー

あらすじが全て。"心の声が聞こえる"ことで恋愛から離れた主人公・さとりが、心の声が面白い編集・与稀と出会った上に惚れられる。2人の運命は!?みたいな作品。

ブコメなので"2人が付き合うこと"がゴールかと思いきや、実はさほど重要なゴールではありません。というのも、設定上与稀の好意はバレているので、両思いになった時点で2人が付き合うという目標は容易に達成可能なためです。つまり"不安要素"が消えさえすれば、あとはウィニングランを見守るだけ。

ではその不安要素はというと、2つあります。1つ目は"さとりが能力を受け入れること"。そして2つ目は"与稀が自分の気持ちを声に出せるようになること"です。

まず1つ目についてですが、作品の中でさとりは"心の声が聞こえる"能力を上手に使っているように見えます。しかし、元々その能力のせいで精神的にストレスを感じ漫画家になった経緯があり、さらに対人関係でもズルをしているという無意識的な負い目を感じています。そのため、与稀と一歩進んだ関係になるには、この能力=ありのままの自分を肯定してもらう必要があるわけです。

2つ目については、与稀の成長の部分です。与稀は心の声が純情でヘタレな一方で、それが全く表情に出ないので普通のコミュニケーションはかなり難があるタイプ。与稀がさとりに"言葉で"想いを伝えるには、ここを克服する必要があります。気持ちをしっかり言葉にすることの重要性は作品中のエピソードでも語られるので、実はこの作品の大きなテーマの1つであると思います。

これらの不安要素はストーリーの中で提示と解決が成されるので、消化不良になることはありません。

ストーリー自体は、全体の話数が少ないこともあり寄り道は全くないです。むしろ2巻で終わった作品で無駄なエピソードがあるものは、打ち切りであると推察できます。良い指標ですね。好きな回は2話。さとり先生が与稀をめちゃくちゃに弄ぶのが面白いです。

終わり方もすっきりしているので、全体を通して綺麗にまとまっている作品という印象。欲を言えば、その後の2人をもう少し読みたかったです。

4. キャラクター

主な登場人物は3名。実はキャラクターが作品の面白さの大半を担っているといっても過言ではないと思っています。

佐鳥 真心(さとり まこ)

主人公。事故により他人の心の声が聞こえるようになり、当時付き合っていた彼氏の浮気が発覚。その後なんやかんやありTL漫画家になる。(TLはいわゆる女性向けエロマンガのことで、過激な少女マンガ的なやつ。2, 3話ごとにセックスの描写がある。)ペンネームは"さとり"。常識的だけどエロ漫画家という立場を活かして与稀をからかいもする、人間味の溢れているキャラです。

 

与稀 照(よまれ てる)

純情編集。基本的に無口かつ無表情ですが、内心は超絶ヘタレかつエロが苦手。普通にいい人ですが、初対面の人には勘違いされやすいタイプ。1話にして恋に落ちる。与稀がこの作品の面白さの全てと言っても過言ではありません。

 

古坂

与稀の同僚でチャラ男。過去の経緯で与稀のことを憎んでいるようだが...?ラブコメによくいるライバルポジションではなくて、妨害タイプのキャラ。親族ではない妨害タイプは珍しいですね。実は良い人で、割と好き。

 

話自体が短いので、登場人物の数としてはちょうど良く、キャラの特徴を最大限に活かしていると感じました。全2巻の作品でも、やたら人物が多いマンガは結構ありますが、大体キャラを持て余して終わるのでせいぜい4人が限度だと思います。この作品はそこら辺の案配が上手です。

 

5. 独自性

この作品の特徴の中で唯一性が高い要素は、男性が無口系かつ純情でヘタレな部分だと思います。女性が主人公のラブコメにおいては、男性は無口系はいてもヘタレはあまりおらず、大体は自覚or無自覚攻めムーブはしています。男性が主人公の場合はヘタレは結構見られますが、無口なキャラはあまりいません。そうしないと話が進まないので。

従って、与稀の無口&純情&ヘタレなタイプはかなり珍しいです。このキャラでストーリーを作る以上はさとりの能力は必須の設定だったのだと思うほど、キャラクターありきの作品なのかもしれません。

6. 絵柄

絵柄は少女マンガやTLで見るタイプで、個人的にはあんまり好きではないです。引きの全身の絵とかでちょっと違和感を感じるんですが、原因はよくわかりません。読んでるときに特別気になるほどの作画ではないです。

 

7.まとめ

作品の魅力はキャラクターがその大部分を占めていると感じた作品でした。その上でキャラの魅力をできる限り引き出すストーリー構成であり、気持ちを声に出すことの大切さも教えてくれました。短い作品ながらも、なかなか密度の濃い作品だったので、是非読んでみてください。