轍鮒之急

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【5】どろぼうちゃん【完結マンガ感想】

こんにちは。キセキです。

 

完結マンガ感想、第5回目は「どろぼうちゃん」です。

1. 作品概要

「どろぼうちゃん」(全4巻)

作者: ひととせひるね 出版社: 講談社 ジャンル: 恋愛, コメディ

あらすじ

高校2年生の夜長くんには気になる人がいる。物静かで清楚な隣の席の眠方さんだ。

でも、そんな彼女がある日、彼の部屋に「どろぼうちゃん」として侵入してきて…!?!?

あかるくたのしい犯罪未満ラブコメ

単行本1巻裏表紙より

 

講談社のマガポケで、昨年の5月から配信されていた作品。私は単行本1巻の表紙を見て買いました。1回はスルーした記憶がかすかにあります。個人的には、正直評価は高くない作品です。それでは感想を記していきたいと思います。

 

2. 舞台設定

舞台は現代日本。主人公達にも特別な能力とかはないので、普通の世界です。多分。

作品独自の設定としては、ヒロインが泥棒(自称)であることと、その捜査を高校の風紀委員がやっていることです。前者はラブコメ作品としての本作の肝、すなわち差別化点であり、後者は泥棒というか怪盗作品で必須の好敵手枠なので、どっちも欠かせない要素ではあります。しかし、それらの味付けがかなり雑であり、この作品の評価を下げざるを得ないことになっている部分だと思います。

 

3. ストーリー

あらすじの通り、主人公は男子高校生の夜長君、ヒロインは夜長の片思い相手の眠方さん。眠方さんが変装し"どろぼうちゃん"として夜長君の部屋にやってくることで、毎話展開していきます。彼女が彼の部屋に泥棒に来た理由は、一人前の泥棒になるために、身近な悪人から何か盗むことを母親から課され、悪人面していた彼をそのターゲットに選んだためです。夜長君、不憫。

ブコメ×泥棒である本作の終着点は、眠方さんが夜長君の心を盗むことです。しかし、上述のように眠方さんから夜長君への好意はゼロから始まるので、このゴールは終盤まで明示されません。従って、ストーリー展開は夜長君がラブコメを進展させる言動を(無意識に)して、眠方さんの好意レベルを上げるのが主軸で、眠方さんが夜長君を好きになったらゴールとなります。このストーリー自体は良いと思いますが、それを構成するキャラクターたちが悪い意味でクセが強く、ストーリーにも悪い影響を与えてしまっています。詳細は後述のキャラクターの項目で。

 

全体としては、日常パート3話につき、進展パートが1話ある感じ。基本的には夜長君と眠方さんの二人でストーリーは構成されていますが、眠方母や風紀委員の面々が時々絡んできます。ストーリーの展開速度はしっかり練られており、眠方さんの夜長君への好意が徐々に積み上げられていくのが分かります。この作品の良い点はここです。

一般的に長期連載を前提とした作品では、いつまで連載が続くか不明なため気持ちの変化的なイベントは引き延ばして、展開スピードが遅くなります。しかし、この作品では初めから作品の長さを意識してイベントを発生させており、結果としてブコメとしてのテンポ感はかなり良いです。打ち切りだったのか疑わしいくらいです。

 

個別のエピソードについて、ラブコメ部分は悪くはありません。その一方で、登場人物達の思考回路がよく分からないという問題点がしばしば見られます。ヒロインは度を超したポンコツキャラなので盗みに入っている相手に「今から盗むのでボーッとしててください」とか言うし(「前科1犯 夜長くんとどろぼうちゃん」)、風紀委員は彼女を捕まえたいと言っている割に捕まえないし(「前科15犯 勉強会とどろぼうちゃん」、「前科21犯 追跡者と~」)。細かい部分ではありますが、毎話のように理解不能な言動があるので、ちょっと胃もたれ。途中からは完全に割り切って読んでいました。

一応好きなエピソードを挙げておくと、風紀委員に奪われた"どろぼうちゃん"のトレードマークを、夜長君が眠方さんと一緒に盗み返しに行く「前科30犯 心とどろぼう」です。これぞ怪盗という動きを夜長君がしてくれるので、夜長君の評価が爆上がり。

 

最後に作品の終わり方です。夜長君への好意を自覚した眠方さんが、夜長君からの好意にも気づきますが、"どろぼうちゃん"としても好きになって欲しいと思い悩みます。母からの助言で、それら両方を実現するために"夜長君の心"を盗むことを決心して、夏祭りにて告白イベントを迎え、後は大団円。前述の通り、好意の積み重ねはしっかり描かれてきたので、展開の唐突さもあまり感じず、綺麗にまとまっています

 

まとめると、ストーリー展開はちょうど良いスピード感であり、最後に向けた流れや終わり方も自然なので、その点は良いと思います。その一方で、随所に見られたキャラクター由来の不自然、不可解な部分は、割り切って読めない人には不快感を与えうるところだとも感じました。

 

4. キャラクター

作品のメインキャラは、主人公とヒロイン+風紀委員です。ただ、風紀委員4人のうち3人はキャラの役回りが弱めなので、そこは簡単に紹介します。

 

夜長静

主人公。読書が趣味で、葉加石という友人がいます。目つきが悪く悪人面という理由で、片思い相手にターゲットにされた可哀想な人。常識人ですが、陰キャ寄りの割にキザな台詞を吐き、よく後悔しています。

ブコメ主人公としては、だいぶまともな人間かつ、ラブコメを進展させようという気概もあるので、評価は高めです。ただ"どろぼうちゃん"の結構キツい言動に対する許容範囲が広すぎる。器がでかいのか、恋は盲目、惚れた弱みというやつなのか。なぜかマンションに一人暮らしをしていると思われます。

 

眠方翠

本作のヒロイン。学校では清楚かつ真面目な雰囲気をまとっており、夜長の隣の席だが話したことはほぼない。放課後は"どろぼうちゃん"として夜長の家に上がり込み、盗みを働こうとしているが、基本ポンコツ。泥棒のときはヤバめのコスプレをしています。母親・眠方緑はちゃんとした(?)義賊だった人。母親はそこそこ出てきます。

マンガではよく忘れられますが、変装してても声は同じはずなので、気づかれないのは嘘じゃない?とか思ってしまう。

作品としての問題点の1つがこの人。キャラの特徴は、①泥棒を自称していること、②ポンコツであることですが、これらがかなり人を選ぶ味付けになっています。①については、実際に窃盗をしている場面はほぼないものの、犯罪をしようとしていることに対する自覚ややる気、目標が弱すぎます。②については、個人的に許容限界以上の馬鹿でした。他人の頼んだ料理を勝手に半分食べといて、なんだその態度は。

泥棒やポンコツ要素がヒロインを可愛く見せる以上の機能はなく、ラブコメのエッセンスでしかないと言われればそれまでですが、馬鹿さ加減が不快に片足突っ込んでいるので、キャラとしての評価は低いです。これについては独自性の項でもう少し掘り下げます。

 

犬見さん

メインの2人の同級生かつ風紀委員の一員。作中で3番目に出番の多いキャラです。風紀委員長に命じられ、コスプレ姿で"どろぼうちゃん"を捕まえようとしています。最初はしっかり捕まえようとしていましたが、ヒロインがあまりにもポンコツだったためか途中からあまり本気ではなくなっています。

同級生というのもあり、キャラの掘り下げが行われている貴重な1人。といっても、中途半端ですが。メンヘラ気質は完全にとってつけたような設定で、あまり活かされていませんでした(「前科17犯 夜長くんと心配」)。不憫設定のほうがよく出てきた印象です。キャラとしては夜長君の次に好きです。

 

芦本辿・藤護さき・裁原優

  

風紀委員の残りのメンバー。芦本は夜長君のストーカーをしているヤンデレ男子。藤護は怪力な恋バナ好きな女子。裁原はチビ、強がり、犬見にコスプレをさせている、怖がりな風紀委員長の女子。3人とも属性過多っぽいキャラで、もっとストーリーに出したかったんだろうというのが分かります。ここがこの作品のもう一つの残念なポイント。終盤に少し出るくらいなので、無駄にクセの強いキャラだけが増えたように見えてしまいました。長期連載を見据えていた要素が裏目に出てしまった形だと思います。

 

以上の通り、キャラのクセが強いのがこの作品の個性であり、問題点でもあります。許容可能なラインは個人によってまちまちですが、オーバーなキャラ設定の場合、その描き方でキャラの印象が大きく変わるので、作者の腕が試される要素だと思います。

 

5. 独自性

この作品は、ラブコメとしては、男子視点がメインの高校生男女1対1形式という普遍的な型です。このタイプの作品では、キャラクターの味付けで独自性をつけるのが定石です。本作も例に漏れず、ヒロインに"泥棒"や"ポンコツ"といった複数の属性を付加することで差別化を図っています。

この中でも"泥棒"という属性は特に強い、と思っていました。最近は"泥棒"や"怪盗"を題材とした作品が珍しいですし、学校の外でもストーリーを展開できるようになるので、ラブコメの拡張性が見込めます。同時に扱いが難しい要素とも言えます。窃盗は普通に犯罪なので、大義名分や勧善懲悪、もしくは"泥棒"をすることに対する相応の意志がないと許容しがたいものです。

キャラクターの項でも述べましたが、この作品では、このような問題点をクリアしておらず、ヒロインの行動に共感できませんでした。また、"泥棒"という要素を上手く使いこなせているとは言えず、単純に主人公の家でラブコメをするための手段に落ちているように感じます。残念。

結局、目を瞠る独自性があるように思えて、期待していたものではありませんでした。

 

6. 絵柄

絵に関しては、コメディ作品においては十分なクオリティだと感じます。好きかと言われれば、まあ可も無く不可も無くというのが正直なところ。実際表紙買いなので、嫌いではないです。今ではヒロイン見るとむかつくようになってきましたが。

 

7.まとめ

最近学んだのですが、"クソな行為を作者がクソな行為として描いているか"は、そのキャラを不快に感じるかの1つの指標になります。そこを弁えていれば、犯罪者が主人公でも面白いし、悪役でも魅力を感じられます。

今作「どろぼうちゃん」では、"盗み"という犯罪行為をヒロインが大義も目的もなく、犯罪だと意識もせずに行っているように描かれており、そこが一番足を引っ張っていたというのが個人的な見解です。

あとは、各キャラクターの個性が強いものの、それが十分に活かせていない点も目につきました。活かしきれない個性は、連載の長期化が見えてから後付けでも良いのではと思います。

とはいえ、主人公がしっかりとラブコメを進行させていく構成やストーリーの展開速度といった要素は、類似の作品の中でもしっかり考えられていたように思います。

 

それでは。